ここでは、「オルガンの構想」で述べた、ケルンの聖ペーター教会のオルガンをヒントに
グレイス・チャペルのオルガンで試みている特徴的な4つの機能について
ご紹介したいと思います。
① マリンバ・カリヨン
② インターバルカプラー
③ Winddrossel
④ Midi
① マリンバとカリヨン
空気を使わないストップとしては、オルガン中央の星がクルクルと回転して鈴のような鐘のような
キラキラした音がするZimbelstern(ツィンベルシュテルン)は生徒にも大人気ですが、他に打楽器が
2種類あります。それがマリンバとカリヨンです。
マリンバは上の写真のように、オーケストラで使用されるものと同じようなマリンバの2オクターブの音域内で全ての鍵盤に対してバチが取り付けられています。
写真には白鍵黒鍵の別はありませんが、鍵盤は半音階で並んでいます。
これが、全ての鍵盤に対応しています。
手鍵盤は当然2オクターブ以上あるので、マリンバは鍵盤の範囲内で2オクターブがリピートされるわけですが、
もちろんフルートなどといった他のストップと組み合わせて鳴らすことも可能です。
さらに、打鍵一回につき一打という単打だけでなく、連打の機能もあり、その場合は指が鍵盤上にある間は
その音が連打されます。そしてなんと、打鍵の強さもスウェルやクレッシェンドペダルと同じ形の足ペダルを使用して段階的に調整することができます。
連打のスピードも、マリンバストップの横にあるノズルを回転させることで無段階でコントロールする
ことができるのです。
マリンバの響きは温かみがあって、優しい音色を生み出します。
写真の中央と右はカリヨンですが、本物のカリヨンは鐘!ここではこんな細い金属の棒を
叩くことでコイーンというカリヨンっぽい音色を作り出しています。
このマリンバとカリヨンの製作はケルンで様々な楽器を作っておられるゲルハルト・ケルンGerhard Kernさんが
手がけてくださいました。
打楽器のアイディアは聖ペーター教会のオルガンからもらっています。
「Concept オルガンの構想」で述べるように、聖ペーター教会のオルガンには何十種類もの打楽器ストップが
あり、それはそれは多彩で圧巻なのですが、
このオルガンでは打楽器はとても限られます。何の打楽器を入れるか悩んだ末に
マリンバとカリヨンに落着きました。
② インターバルカプラー
何それ!?そんなの聞いたことない!という名前。
ご安心を。多分そんな言葉ありません。
私たちが名付けました。
これも聖ペーター教会のオルガンから頂いた
アイディアです。ただしボタンのデザインは
完全なオリジナル。
写真の一番上の鍵盤(第三鍵盤)の上にある白くて丸い可愛らしいボタンがその操作ボタンです。
オルガンには通常、「カプラー」と呼ばれる機能があり、例えば III/I というカプラーを使用すると、一段目の鍵盤を弾くと三段目の鍵盤に対して選んでいるストップが一段目のストップと同時に鳴るというものです。オルガン建造の歴史の中でも随分古くからある、オルガン演奏の必需品!とも言える機能です。
このオルガンにも当然一般的なカプラーはありますが、
それ以上のことをするのがこの「インターバルカプラー」。
ドイツ語で「音程」の事を「インターバル」といいますが、つまりどの音に対してどの音をカプラーさせるのかを、音程単位でプログラミングできるしくみです。しかも中心音に対して上下1オクターブずつ、合計2オクターブの音域で好きに音を選ぶことができます。複数鳴らすことも、全て選ぶことも可能です。
写真の丸いボタンは、実は鍵盤のように配置されているのがわかって頂けるでしょうか。
ちなみに「ド」の音の場所にあるボタンだけ黒っぽいのは、このボタンが「キャンセル」ボタンで、
他のボタンと機能が違うからです。
例えば「ミ」のインターバルカプラーボタンを押して第一鍵盤で「ド」の音を弾くと、第三鍵盤の「ミ」の音が鳴るというしくみです。
カプラーは一音に対してだけでなく、鍵盤全体にかかりますので、第一鍵盤で「ドレミファソ」と弾くと、
第三鍵盤のストップで「ミファ♯ソ♯ラシ」が同時に鳴るということです。
ただしこのカプラーは、III/I のカプラーでしか機能しません。同様の機能がペダル(足鍵盤)にもあります。
これも、III/Pでのみ有効です。
なぜそんなことができるのか?それは、そもそも III/I とペダルカプラーがエレクトリックで作られているからです。エレクトリックのカプラーのために、それぞれの鍵盤にセンサーが取り付けられています。
センサーでカプラーが決まるのであれば、何音でも同時に鳴らせてしまう訳です。
当然、メカニカルなカプラーではできないことです。
ちなみに、カプラーについてもう少し。
メカニカルなカプラーとエレクトリックなカプラーのハイブリッド方式ともいえるこの楽器ですが、
このような異なるしくみのカプラーが両方使用されていると、複数の鍵盤のパイプが反応するタイミングが
うまく合わないことが良くあります。
その問題を解消するために、このオルガンではごくごくわずかなカプラーの反応のタイミングまでプログラミングで調整できるようになっています。全く同時に反応させる事も可能。ただしそうすると鍵盤の負荷が増えるので、
音楽的に障害にならない程度に微妙にずらしています。そうすることで、カプラーが入った状態で
和音を弾いても鍵盤が極端に重くなることを防いでいます。
レーガーなどを演奏する際にはとっても助かります。