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孤島

ドイツから帰国し、就職して13年目になります。

ケルンで学んだ4年間は自分の一部であり続けていて、帰国して10年ほどは美しい過去が徐々に薄れていく恐怖のようなものがあったのですが、ここ数年は不思議と過去のものではなく少し別の物に成長しつつあると感じています。

例えば2014年から共に活動させてもらっている声楽アンサンブル、ヴォイスペクティヴ(Voice=Spective)との活動は私がケルン留学中にオルガンと並行して精力的に行なっていた合唱活動が、帰国して不思議なご縁で形になっていったものであるし、

先日実現した自分のコーラス(というか声楽アンサンブル)vocal plusの立ち上げでもやっぱりドイツでの活動をたくさん思いおこしました。

特に合唱指導に関しては、当時私自身がお世話になった3人の合唱指揮者、ペーター・ノイマン(Peter Neumann)、マルクス・クリード(Marcus Creed)、フィリップ・アーマン(Philipp Ahmann)に大きな影響を受けていて、

何かと様々なシーンがフラッシュバックしたのですが、振り返ってみれば素晴らしい指導者ばかりで何とも贅沢な時間を過ごしていたとつくづく思いました。

ペーター・ノイマンと、ケルン音大のコーラスの指揮者だったクリード先生は当時から既に

世界的な指揮者として活躍されていたのだけど、フィリップ・アーマンは当時はまだ私が偶然所属していたアマチュアコーラスの指揮者に過ぎず、まだ大学を卒業してあまり経たない駆け出しの合唱指揮者という感じでした。

アーマンはプローべ(Probe:ドイツ語で合わせ練習や合唱練習のことを指す)の前の発声指導がとても上手くて、合唱指導でも指示がとても具体的かつ明瞭だったのが印象的で、私自身合唱を指導するとなると彼のことばかり思い出したものでした。

(実際私は今でも彼がやっていた発声法を取り入れていたりします。)

アーマンはその後どんどん出世(?)し、2020年にはドイツのMDR Rundfunkchor(ライプツィヒMDR放送合唱団)の指揮者に就任しました。

 冒頭の動画は昨年9月に公開されたもので、ミヒャエル・ランゲマンという若手のロシア/ドイツ人作曲家がロックダウンの最中にMDR Rundfunkchorのために書いた作品、「Inseln (孤島)」。

(正確には、Inselとは「島」という意味で、Inselnはその複数形です。)

副題の「Gesang von ferner Nähe」というのは訳すのが難しいけど、

コロナ禍の個人と個人が「近くて遠い」様子、そしてそれぞれが孤島のようになっているのを声楽的に表したと解釈できます。

昨年のドイツで上演できる歌い手たちの間隔や人数の条件に従い、また作品を細かいセクションに分けてグループを分けて収録して重ねられていますが、最終的に編集により組み合わせて作品が完成するので、ライブでは為し得ない音響と表現が見られます。

最後の方には"第九"の断片がコラージュのように差し込まれてきたりして、つくづく第九は合唱の象徴なんだな、と感じさせられたりもしますが、個人的には非常に興味深いパフォーマンスだと思いました。