『瓶覗(Kamenozoki)』創作プロセス第二弾です。
2年間のZOOMミーティングでは、楽器を演奏する者たちが時差を超えて画面越しに顔を合わせるものの、音楽家が楽器なしに話すのは実りがあまりに少なく、正直なところ収穫に対してフラストレーションも溜まる時間ではありました。
コンセプトを巡って様々な観点から意見を出し合い、やがてそのアイディアに合わせて各々が自分の楽器を使って試した音素材のビデオや音源を共有し、またディスカッションをして・・・というのを何ヶ月か重ねていきました。
今回は色と色の間、様々な領域の境界線の曖昧さをいかに音で表現するか、という課題だったのですが、例えばオルガンではクラスターグリッサンドと呼ばれる奏法(オルガンの鍵盤上に手のひらを滑らして演奏する奏法)を様々なレジストレーションで試してみたものをマテリアルとしてプロジェクトチームの皆に聴いてもらったりしました。
それに融合させられるかもしれないものとして、バイオリンでフラジオレットをしながらグリッサンドをして弾いてみてもらい、今度はフロリアンから「シェパードトーン」が融合できる素材かもしれない、ということで試作音源を送ってもらったりと、誰かからアイディアが出てくるとそれに関連させて誰かが別の音色を試してみる、といった風に徐々に組み合わせて使えそうな音色のアイディアを集めていきました。
でも一番難しかったのが、クラシック音楽の理論や奏法をベースに生まれたこうした音楽を、いかに能の発声や言葉といった概念と結びつけていくのか、ということでした。
言葉(テキスト)に疎い楽器奏者の集まりで、しかも言葉の壁もあり、今回は文学的なコンテクストがある作品でもありません。
オルガン、バイオリン、エレクトロニクスでやっていることが非常に抽象的なのに対して、能声楽が如何に具体的に響くことか!言葉というもの自体が楽器奏者にはとても具体的に迫るので、それをどう扱ったら良いものかにとても頭を悩ませたのでした。
「いっそのこと、言葉をなくして母音だけで歌ってもらっては?」というアイディアもあったのですが、最終的に落ち着いた案は、エレクトロニクス(アナログシンセサイザー)担当のフロリアンが作り出したメロディーモデルでした。
私たちが色の話をする際、和田三造氏の配色事典を参照していたのですが、その配色事典の中の緑から青までの日本の色の名前(46種類もある!)を使ってしまおう、というところに落ち着きました。
色の名前は日本語で3語〜7語のいずれかで語られ、それに合わせて3つから7つの音で構成される音列のパターンが50種類ほど作曲されました。
青木さんには色の名前とメロディーパーツを任意に組み合わせて歌ってもらうのです。
ただし、色の名前の言葉数に合わせた音数のメロディー群から選ばないといけないことになります。
このメロディーモデルは楽器隊も使うことができて、五線ではなく三線で書かれているので、音高を任意に動かすこともできます。
一音ずつの音価を同じにすれば、同じ音数のメロディー群を続けて演奏すると拍感が生じるし、逆に敢えて異なるリズムや拍感を与えてやることも可能です。
そうやって歌パートと共通のマテリアルを得ることで、一つの道筋を得ることができました。
色々試した結果、4つの音数で構成されるメロディーパターンを楽器隊でわずかに変化を加えながら反復することで、作品の構成材料になるトリオパーツを作ることになったのでした。
創作プロセス3に続きます。
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