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Kamenozoki 創作プロセス1

日独共同プロジェクト『Kamenozoki』、昨日無事に終演しました。

ドイツ人のプロジェクトパートナー、レア・レッツェル(Lea Letzel)が京都のゲーテインスティトゥートヴィラ鴨川のレジデンスアーティストとして京都に滞在していた際に、「一緒にプロジェクトをしよう」と話していたのが3年前の2019年。ゲーテインスティトゥートの助成とドイツの芸術基金のおかげでプロジェクトが動き始めた途端にパンデミックに見舞われ、「2020年夏にケルンで約1週間の創作ターム、2021年の春と夏に京都とケルンで公演」と予定していたプランは全部流れてしまいました。

パンデミックという誰にも先が見えない状況で、日独間の渡航は全く想像できず、助成期間がどこまで延期されるのかもわからず、ただZOOMでミーティングを定期的に継続するしかなく。

企画してから上演までが長期間になると予期せぬことが次々に起こるもので、詳細は省きますが道のりは決して平坦ではありませんでした。

 

公演の内容について、説明するのは実は結構難しい。

パートナーのレアの活動そのものも何かのカテゴリーに該当するわけではないので、とても説明がしにくいのです。

プロジェクトの出発点は、日本とドイツの感覚的な違いや文化的な違いを「異質なもの」「エキゾチックなもの」で済まないやり方で融合させられないか、という漠然としたイメージにありました。

レアは舞台美術やメディアアートを専門にする一方で音楽家たちと活動することが多く、特に現代作品の上演の際に照明や舞台セッティングを手がけるなど、音楽作品の演奏を聴覚的なものだけではなく視覚的な演出を加える活動などもしていました。

でも彼女が重きを置いているのは、彼女の方から具体的なコンセプトを提示し、楽器の組み合わせを考え、演奏家に声をかけて作品を作っていくディレクターとしての活動です。

レア自身は作曲をする訳ではなく、演奏家でもありません。

大抵は2人以上の演奏家が、彼女が提示する具体的なコンセプトに基づいてそれぞれの自由な発想のもとクリエイティヴに演奏し、彼女がそれを聴いて作品の全体の流れや構成などについて修正を加えていき、演奏家の方からもそれぞれのアイディアを持ち寄り、少しずつ一つの作品を作り上げていくのです。

プロジェクトのタイトル、『瓶覗(Kamenozoki)』は日本の色の名前に由来していて、今回のプロジェクトは色のバラエティ、特に青と緑の色の幅、色の感じ方、音色の質や感じ方、というのがテーマの一つになっているのです。

今回の編成はオルガン、能声楽、バイオリン、アナログシンセサイザー(エレクトロニクス)でしたが、編成ありきでスタートしたのではなく、むしろメンバーの個性や楽器の特性から編成が決まっていきました。

そもそもレアと私を結びつけたのはケルンの聖ペーター教会のオルガンで、そのオルガンの妹分である同志社グレイス・チャペルのオルガンの2つのオルガンが、プロジェクトの起点になりました。

聖ペーターのオルガンもグレイス・チャペルのオルガンも、伝統的なオルガンとは異なる異端なオルガンです。

バイオリンのアキコ・アーレントはドイツで生まれ育ったハーフのバイオリニストで、アナログシンセサイザーとエレクトロニクスを担うフロリアン・ツヴィスラー、アキコ、レアの3人は息の合ったチームでレアのいくつかのプロジェクトを既に経験していました。

ただアキコもフロリアンも、クラシック音楽の教育を受けながらもその世界を踏み越えて他の世界との境界に踏み越えようとする活動をしていて、そういう点では少し異端といえます。

今回のプロジェクトを特徴づけるのは能声楽の青木涼子さんの存在ですが、日本の伝統芸能である能を出発点にしながら、現代音楽とコラボレーションさせる活動をする青木さんもやはり異端。

伝統と革新、東洋と西洋、電子音とアナログ音、楽器の音と人の声、様々なカテゴリーの壁を越境していこうとする編成でプロジェクトがスタートすることになったのでした。

実際の創作プロセスは次回に続きます。

写真は、今回唯一の音楽的マテリアルとなったフロリアン作のメロディーパーツです。