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メシアンへのオマージュ

何日か前から1枚のCDを繰り返し聴いている。
2008年、メシアン生誕100年を記念してドイッチェグラモフォンから出された「メシアンへのオマージュ」である。
弾いているのはメシアンの名手、ピエール・ロラン・エマール。
エマールはメシアンの2人目の妻、イヴォンヌ・ロリオの弟子で、メシアンのピアノ作品の演奏については右に出る人は未だいないような気がする。
2008年といえばまだ私はケルンにいて、音大の校舎でエマールと時々すれ違うこともあった。(エマールはケルンで教えていた)

「メシアンへのオマージュ」には、メシアンが20歳頃の時、まだパリ音楽院の学生だった頃に書いた8曲から為る前奏曲集、そして50年代初頭にダルムシュタットに於いて、トータルセリーの初の試みとして注目を集めた「リズムのためのエチュード」から2曲、そしてその数年後にセリーを手放し、独自の語法へと舵をきって生まれた「鳥のカタログ」から2曲が抜粋され収録されている。
メシアンのピアノ作品では「幼な子イエスに捧ぐ20のまなざし」が日本では比較的よく知られており、もちろん素晴らしい作品であるが、メシアンという作曲家を知るという意味では、「メシアンへのオマージュ」は本当に素晴らしい一枚だと感じる。
作曲家を熟知するエマールだからこそできた試みだ。

CDに付されたエマール自身による解説によると(私の頼りない解釈によると)、前奏曲集はメシアンが母を亡くした後、「鳥のカタログ」は妻を闘病の末亡くした後に生み出され、大きな悲しみや苦難の淵に立たされたときに、凄まじい創作によりそれらを受け止めて前へ進もうとするこの作曲家のとてつもない姿を感じさせられる。
特に前奏曲集の2曲目の「悲しい風景の中の恍惚の歌」は、前奏曲集の中でも美しさが特に際立っていて、悲しみの極致の中での「恍惚」という表現は、第二次世界大戦中の収容所の中で作曲・初演された「時の終わりの四重奏曲」にも現れていた。
どうやってそんな精神に到達するのか、どうやってこんなにも美しい響きを見出すのか、それを思うと何も言葉が出なくなる。